今から約20万~30万年前、私たち現生人類(ホモサピエンス)に最も近い存在であるネアンデルタール人が誕生しました。
ネアンデルタール人は、ホモサピエンスよりも大きな脳(平均約1450cc)を持っていたとされており、その脳を使って、かなり複雑な文章を作成することができた、と考えられています。
彼らは、亡くなった仲間を埋葬したり、肉体的にハンデを負った仲間を手助けするなど、かなり私たち現生人類に近い行動をとっていたようです。
このような行動から考えられることは、彼らネアンデルタール人は、言語を使った複雑な思考ができていたということが見受けられます。
ただし、彼らネアンデルタール人の喉仏に繋がる神経の様子を分析した結果から察するところによると、『a』『i』『u』の発音がはっきりと出来なかったであろうと推察されています。
私たちが言語を発する際、この3つの母音はかなり重要な役割を担っています。
そのため、ネアンデルタール人が使っていた言語というものは、私たちが使っている言語の発声方法とは、かなり異なったものであったのではないか、と考えられています。
ホモサピエンスの言語
私たちが使っている言語を考える上で、最も重要なのが、我々の直接の祖先にあたるホモ・サピエンスが使っていた言語と言えます。
私たちの祖先であるホモサピエンスは、複雑な文章を頭の中で作成することが出来ていたとされており、その能力を使ってかなり高度な思考が可能であったことが分かっています。
今から約15万年ほど前には、私たちが普通に行っている発音を可能にするための肉体的な条件は全て整っていた、という考えが有力な説となっています。
一説には、ホモサピエンスとネアンデルタール人が混在する時代、この両者で交配を含んだ接触が行われ、それぞれの文化や遺伝子への影響があった、と言われています。
2010年に発表された論文によれば、約4万年前の遺跡から見つかったネアンデルタール人の女性3人の全遺伝子情報(ゲノム)と、世界各地に住んでいる現代人5人の全遺伝子情報(ゲノム)の調査結果を比べてみると、アフリカ以外の現代人のゲノム1~4%がネアンデルタール人に由来していた、ということが発表されています。
もし、この説が正しいとすれば、ネアンデルタール人とホモサピエンスが、互いの言語に影響を及ぼし、発達していったと考えることができます。
では、私たちの祖先であるホモサピエンスが獲得した言語というものは、一体どんなものだったのでしょうか?
回帰的階層構造という特徴
ホモサピエンスが獲得した言語の特徴として回帰的階層構造(以下『階層構造』と呼びます)が取れることにあります。
階層構造というのは、同じ種類の構造を、文の中に繰り返して埋め込む構造のことを言いますが、これではさっぱりと意味が分からないと思うので、少し例を挙げてみたいと思います。
- あの人の本
これは、「~の本」という言葉に「あの人」という言葉を埋め込んだ文章です。
- 山田さんは帰ったと思う
これは、「~と思う」という言葉に「山田さんは帰った」といった文章を埋め込んだものとなります。
文法上は変則な言語でも意味は同じ
さらに複雑な文章で説明すると、以下のような文になります。
- 山田さんは吉田さんは中本さんは正しいと言っていることを知っている
何だ、この文章は? と思った方も多いと思います。ですが、文法的には間違っていない正しい文章と言えます。
つまり、「中本さんは正しい」と吉田さんが言っており、そのことを山田さんは知っている、という内容の文章になります。
この文章の階層構造を解説すると、「中本さんは正しい」という文章が「吉田さんは~と言っている」という文の中に埋め込まれているということになり、さらにこれら2つの文が「山田さんは~を知っている」という文に埋め込まれて1つの文章として成立している、ということになります。
ホモサピエンスは、このように複雑な情報を頭の中で文章にして、言語として発声していたとされており、言語としてはかなり完成されていたと考えられています。
人類だけが持つ特殊能力である言語についての解説は、さらに別の記事で取り上げていきたいと思います。
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